世界の現場から学ぶ、神奈川の未来づくり―スイス・フランス視察レポート

視察

各訪問先での学び

2025年3月26日~31日、スイスとフランスを訪問し、スイス公文学園、WHO(世界保健機関)、OECD(経済協力開発機構)、JETRO(日本貿易振興機構)、CLAIR(一般財団法人自治体国際化協会)などを視察・訪問してきました。国際的な現場の最前線で見たこと、聞いたこと、感じたことを通じて、神奈川県の可能性や課題、そしてこれからの方向性について多くの気づきがありました。
今回の視察では、「教育」「福祉」「環境」「産業」「国際連携」といった多様なテーマに触れ、それぞれがつながり合って地域の未来を形づくっていることを実感しました。
本記事では、各訪問先での学びをレポートとしてまとめ、県政への活用の視点からご報告します。

【スイス公文学園】

◇ こどもたちの誇りが生まれる学び:多様性と体験こそグローバル教育

スイスにある「スイス公文学園」では、多国籍な環境の中で学ぶ子どもたちが、語学力だけでなく、寮生活や近隣諸国への学習旅行といった多様な体験を通じて成長しています。
私が訪問した際、子どもたちが自分の夢や学びについて自信を持って語る姿に感動しました。
特に印象的だったのは、地域の人々に日本文化を紹介する「オープンハウス」という取組です。学校が地域とつながり、異文化理解を育む場となっていることが伝わってきました。
グローバル教育とは、語学教育だけではなく、多様性の中での生活や価値観の違いを実体験を通じて理解することに本質があります。

神奈川県の県立学校でも、こうした体験型の交流や地域との連携をさらに進めていくことで、子どもたちの学びに誇りを持たせる教育のヒントが得られると感じました。
一方で、円安の影響で学費が高騰しており、在外教育施設への支援が限られている現状も耳にしました。
今後、制度的支援のあり方についても議論が必要です。

【WHO(世界保健機関)】

福祉先進県・神奈川の使命:エイジフレンドリーを世界へ

ジュネーブのWHO本部では、高齢者福祉や感染症対策をテーマに、国際的な知見を得る意見交換を行いました。
中でも注目すべきは、「エイジ・フレンドリー・シティ(高齢者にやさしいまち)」の国際ネットワークにおいて、日本の24自治体が認定を受けている中、22が神奈川県内の自治体であるという事実。
これは神奈川が、世界でも有数の福祉先進地域であることを示しています。今後はその実践を国内外に発信し、広げていくことが県の使命だと改めて感じました。
しかし、現場の課題として、高齢者本人に正しい情報が届いていないという実情も共有されました。
特に災害時や感染症の拡大時には、信頼ある情報の発信が生命線となります。
WHOのような国際機関と平時からつながりを持ち、情報の共有や連携体制を整えておくことが、非常時の迅速な対応につながると実感しました。自治体と国際機関が日常的に連携し、互いの知見を活かすことで、より質の高い政策形成が可能になるのです。

【OECD(経済協力開発機構)】

脱炭素×観光は神奈川のチャンス:国際連携で未来を描く

OECDでは、循環型社会や脱炭素の世界的な動向について学ぶ機会を得ました。
特に横浜市では「サーキュラーエコノミー」の先進的な施策が進んでおり、神奈川県でも「循環型社会づくり計画」が策定されていますが、県レベルでの国際的な発信や連携はまだ十分とは言えません。
OECDの担当者も、神奈川県の取組を把握しておらず、今後の連携に期待を寄せていました。
国際的な枠組みに接続することで、県の政策の効果や影響力を高めることができると感じました。また、注目すべきは「観光と脱炭素」の組み合わせです。
観光業ではエネルギー消費や移動に伴う環境負荷が問題視されていますが、神奈川ではオーバーツーリズムも課題となっており、「持続可能な観光」が重要なテーマです。
今後、観光地の再設計や移動手段の見直しを含めた、脱炭素型観光モデルの構築に取り組むことで、観光の質の向上と地域資源の保全の両立が可能になります。
OECDとの継続的な連携を視野に、神奈川が世界に向けて発信する絶好の機会です。

【JETRO(日本貿易振興機構)】

伝統工芸の未来へ:輸出より“今ここ”の価値発信を

フランスでは、日本の伝統工芸品に対する関心は高く評価されていますが、実際の生活様式や文化の違いから、製品の使われ方や価値の受け止め方にはギャップがあることがわかりました。
たとえば、手洗いが必要な器は食器としては受け入れられず、ジュエリーボックスとして使われるなど、現地の感性に合わせた再解釈が求められています。
このことから、単に海外への輸出を目指すのではなく、まずは日本を訪れるインバウンド客に伝統工芸の魅力を伝え、購入につなげることが重要だと感じました。
そのためには、外国人視点を取り入れた商品企画や、魅せ方・展示方法の工夫が不可欠です。ジェトロのマーケティング支援と連携しながら、地域の事業者がそうした挑戦を行えるような環境整備も必要です。伝統工芸の未来を考えるとき、「守る」だけでなく「再発見し、届ける」視点が重要であり、今ここにある接点—すなわち観光や地域イベントの場—を活かすアプローチが、次の展開につながると再認識しました。

【CLAIR(一般財団法人自治体国際化協会)】

魅力ある支援を活かせない理由:縦割りを超えて進める連携体制

クレア(自治体国際化協会)では、海外の展示会や現地イベントを通じて、日本の地域産品や文化を世界に発信する支援を行っています。
費用も比較的抑えられ、リアルな反応を得られるマーケティングの機会として非常に有益ですが、神奈川県はこれらの取組に参加していないのが現状です。
その理由の一つに、県庁内部の「縦割り」があります。具体的には、伝統工芸を担当する産業労働局と、国際交流を担う文化スポーツ観光局が別の部局であるため、連携がうまく機能していないのです。
このような構造的課題によって、せっかくの支援制度が現場に届かない事態が生じています。
解決のためには、部局横断で動ける仕組みづくりに加え、現場で活動する市町村や事業者に対する丁寧な情報提供も重要です。
県全体として「工芸品の価値を世界に伝える」という共通のゴールを掲げ、そのためにどの部署がどう動くかを明確にする必要があります。
クレアとの連携を進めることで、神奈川の魅力ある地域資源が、世界に届く力になると確信しました。

【今後に向けて】今回の視察を通じて、神奈川県がすでに持っている強みを再確認するとともに、世界とのつながりをさらに深める余地が多くあることに気づきました。
教育や福祉、環境政策、地域産業の振興には、国際機関や他国の知見と連携することが欠かせません。
また、行政内部や地域との「連携」がそのカギとなります。現場の声や体験から得たリアルな気づきをもとに、これからの県政にしっかりと反映させていきます。
地域の未来をより良くするために、これからも国内外の視点を取り入れながら、挑戦と実践を続けていきます。

神奈川県議会議員:大村悠

 

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